6.Doncaster-Lincoln-Peterborough


 8月13日9時7分、私の乗った列車は、終点のDoncasterに到着した。この列車は、 Leeds 8:21発Doncasterゆき普通列車である。
 Doncaster は、東海岸本線下り・上りを含めて7方向に列車が発着するという鉄道の要衝であるため、いろんな列車が発着する。その模様を眺めているのは楽しい。

 ところで、ヨーロッパの主要駅には、ホームや線路を含めた駅設備全体が屋根で覆われた駅が多い。美しい装飾を施されたドーム屋根になっている駅もあり、これらはヨーロッパの鉄道の特徴的な風景になっている。この形式の駅は雰囲気や居住性はいいのだが、光線量不足で薄暗いため、列車の写真が撮りにくいのが難点である。

 ところがここDoncasterは、日本の新幹線のように通過線が中央にあり、その両隣に停車線・ホームがある。しかも、中央の本線の線路部分には屋根が無い。このため、列車の写真が撮りやすい駅である。この駅はイギリスの鉄道趣味人にとっても撮影名所のようで、ホーム端にはカメラを提げた人がたくさんいらっしゃる。お見かけしたところ、鉄道趣味人の年齢層は高い。イギリスでは鉄道は大人の趣味なのか、カメラ少年は見かけなかった。





 Doncasterからは、ロンドンを目指して南下した。Doncasterからは初日に乗った東海岸本線ではなく、東海岸本線の東を並行している Doncaster to Lincoln Lineと Peterborough to Lincoln Line を経由することにした。このルートは東海岸本線とは異なり、電化はされていない。
 運転本数も少なく、平日・土曜日は1時間毎に各駅停車が走るのみである。しかも運行時間帯が狭い。一番運転本数の少ない Sleaford-Spalding 間では、Sleaford発の朝一番は8:34、最終列車は16:34発である。休日は、ごく一部の区間であるGainsborough Lea Road-Lincoln間でわずか一日4往復の列車が走るのみ、それ以外の区間は運休となる。

 10時24分、私の乗った Lincoln ゆき普通列車は Doncaster を発車した。車両は2両編成のディーゼルカーだが、車内はガラガラである。
 沿線風景は単調である。ずっと広い農地・または草原が広がっている。人家は少ない。
 この路線は、ローカル線なのに駅間距離が非常に長い。Doncasterから、次のGainsborough Lea Road までは 34kmもある。この鉄道は、それくらい人が少ないところを走っているのである。
 Doncasterから、Gainsborough Lea Road までは、普通列車はノンストップ、25分間で走る。表定速度は58km/hなので、普通列車にしては速い。日本で言えば、大都市の私鉄の急行電車並みである。しかし、すぐそばを東海岸本線の列車が時速200km/hで頻繁に走っているのだから、この列車の利用範囲はとても狭い。

 11時17分、私の列車は定刻にLincolnに到着した。次に乗る列車は 12:10発Peterborough 行きである。1時間ほどの乗り換え時間があるので、何か食べ物を買いに行くため、駅の外に出てみた。
 意外にも、Lincoln駅の周りは市街地であり、買い物をする地元の人で賑わっている。「ローカル線の乗換駅」という田舎の風情ではない。
 実は、このLincoln駅には、Doncaster to Lincoln Line・ Peterborough to Lincoln Line と十字交差する形で、NotthinghamとGrimsbyを結ぶ路線が通っている。この路線は運転本数は1時間に1〜2本の割合で運行されているが、きちんと早朝から深夜まで走っている上、NewarkやNotthinghamで幹線に接続し、ロンドン方面ゆきの特急に乗換えができる。このため、Lincolnの人は、この路線を使って他所の土地に行けるのである。本数の少ないDoncaster to Lincoln Lineや Peterborough to Lincoln Line を使う必要は無いのだった。



 それを裏付けるように、Lincoln 12:10発Peterboroughゆき普通列車もガラガラだった。車窓もそれまでと同様、肥沃な農地と草原が続くばかりである。
 それにしても、こんなローカル線であっても、線路は複線である。イギリスの鉄道は、線路建設に関しては日本の鉄道よりもはるかに充実している。単線区間での対向列車待ちなどという現象は、イギリスではほとんど体験できない。「イギリスの鉄道はよく遅れる」という話もあるが、こんなローカル線でも複線になっているのなら、ある列車が遅れたとしても他列車への影響は少なく、終日ダイヤが乱れるようなことにはならないのでは・・・。



 などと空想をしているうちに、13時32分、私の乗った列車は終点の Peterborough に到着した。ここは、Londonゆきの快速電車の始発駅である。日本の東海道線で言えば、東京行き電車の始発駅である熱海のようなところである。いよいよロンドンに近づいてきたような気がした。


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